ポスト成長時代の経済・倫理・幸福
研究代表者 広井良典 教授(兼任)
概要
90年代後半から日本社会は実質的なゼロ成長時代に入り、人口減少社会への移行や高齢化の進展とも相まって、経済の限りない「拡大・成長」を軸とする従来の社会とは大きく異なる、ポスト成長時代の新たな社会モデルの構想や「豊かさ」の意味の再考、ひいては価値・倫理意識等の転換が求められるに至っている。
こうした中、近年では世界的にも「GDP(国内総生産)に代わる指標」や「幸福度指標」をめぐる議論や政策が活発化しており、たとえばフランスのサルコジ大統領(当時)の委託を受けて、ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツやセンといった著名な経済学者が、2010年に「GDPに代わる指標」に関する報告書を刊行している。また、プロジェクト2ともつながるが、アジアの小国ブータンが「GNH(グロス・ナショナル・ハピネス、国民総幸福量)」というコンセプト及びその測定のための具体的な指標を提唱してきたことは近年ではよく知られるようになり、国連などでも取り上げられ国際的に影響を与えてきている。
そして、こうした内外の動きにも触発されながら、近年では日本国内の自治体(都道府県レベル、市町村レベル)が幸福度指標の策定への取り組みを進めている。
そうした動きのうち、もっとも先駆的かつ本格的な幸福度指標策定及び幸福政策の展開として挙げられるのが東京都荒川区での「GAH(Gross Arakawa Happiness、荒川区民総幸福度)」をめぐる展開である。荒川区は46の「幸福実感指標」から構成される幸福度指標を策定するとともに、関連の調査研究を進め、併せて「子どもの貧困」、「地域力」、「子どもの自然体験」等といった政策テーマに関する検討を行い、政策への幸福度指標のフィードバックを図っている。
以上のような動向や関心を踏まえ、幸福度指標あるいは幸福政策の意義と問題点、地域再生ないし地方創生との関係、個別政策課題への対応等について多面的な角度から吟味し、ポスト成長時代の「豊かさ」や価値・倫理、そしてトータルな社会構想やそこでの原理となる思想・哲学などを探究し、その実現に寄与していくことが本プロジェクトの趣旨となる。
研究プロジェクト
「幸福政策」と地域再生
上記の東京都荒川区及び幸福度指標の考え方を取り入れた政策展開を図る基礎自治体のネットワークである「幸せリーグ」(広井は顧問の一人)をめぐる政策展開を主たる事例ないしフィールドとして取り上げつつ、幸福政策の意義と問題点、地域再生ないし地方創生との関係性や個別政策課題への対応、コミュニティ経済や都市・農村関係の再構築等について、多面的な角度から吟味する。これらを踏まえ、ポスト成長時代における経済・倫理・幸福の変容と展望をその主体や価値原理にそくして掘り下げ、新たな社会構想につなげる。